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「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕末に困るもの也」(西郷隆盛)

名言再訪(7)リーダーに不可欠の資質

私淑する庄内藩の人たちに、西郷隆盛が語った言葉をまとめた「西郷南洲遺訓」に出てくる有名な言葉である。さらにこう続く。「此の仕末に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬなり」。リーダーたる者、命も名誉も官位もお金も投げ捨てなければ国家のために大業を成し遂げることができない、と説いている。

「仕末に困る」とは名誉やお金で釣ることもできず相手にとってはお手上げということだろう。西郷に会った人は敵も味方も皆、人間としての器量の大きさに魅かれ、たちまち西郷ファンになったという。西郷とは一体どんな人だったのか。

「西郷という奴、わからぬ奴だ。少しく叩けば少しく響き、大きく叩けば大きく響く。もし馬鹿なら大きな馬鹿で、利口なら大きな利口だろう」。勝海舟の紹介で西郷に会った坂本竜馬の感想である。これに対して勝は「坂本もなかなか鑑識のある奴だ」と坂本の人を見る目の確かさをほめている。

勝と西郷が国運を賭けて相対したのは明治元年3月、場所は薩摩屋敷(現在の東京田町)。二人だけの直談判で江戸城の無血開城が決まった。勝海舟の「氷川清話」によれば、西郷は勝の江戸城明渡し、新政府軍の進撃中止などの申し出を何も条件を付けずに飲んだ。

「いろいろむつかしい議論もありましょうが、私が一身にかけてお引き受けします」

これで終わりである。勝は西郷の「大胆識と大誠意」に舌を巻く。血気にはやる新政府軍が江戸を目指して進軍中で、一方幕府側は優勢な海軍力で新政府軍を粉砕しようと意気込んでいる。そんな殺気立った雰囲気の中で相手の言うことをそのまま信じる。しかも西郷はその言葉通り新政府軍を一つにまとめてしまう。

もう一つ勝を感心させたのは西郷の態度である。「西郷がおれに対して、幕府の重臣たるだけの敬礼を失わず、談判の時にも、始終座を正して手を膝の上に載せ、少しも戦勝の威光でもって、敗軍の将を軽蔑するというような風が見えなかった」と記している。

リーダーにはいろいろなタイプがあるが、その中でもとりわけ魅力的で現代に最も欠けているのが西郷のタイプではないか。

(小山博之)

『経営倫理フォーラム』第24号掲載


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