トップページ > 経営倫理情報 > AROUND経営倫理 > 名言再訪(第5回)
江戸末期の漢学者で幕府の学問所「昌平黌」でも教えた佐藤一斎が自ら属した美濃の巌邑(いわむら)藩の重職のために書いたもので現代の企業経営者にもそのまま通用する。
全部で一七条から成る。まず第一条で重職たるものは細かいことに汲々としていては大事に手抜かりが生じると戒める。重職の基本的な心構えである。
第二条で人の用い方に言及し、部下の意見を十分に述べさせ、自分の考えの方が良いと思っても、特に害がなければ、部下の意見を採用せよ。その方が気持ちよく働いてもらえるという。
部下が失敗した場合どうするか。多少の過失をとがめてはいけない。「功を以て過を補わしむる」ことが肝要だとする。まさに人事の要諦であろう。
次に出てくるのがこの冒頭の言葉である。好き嫌いで人事を決めてはいけないと分かっていても、実行となると難しい。そこで一斎は「愛憎の私心を捨てよ」という。
自分好みの部下を集めるのは「水に水を差す類」だと戒める。同質集団が変化に弱いのは現代の企業経営を見ても明らかである。
高度成長期のように万事が順調な時には同質集団は同質ゆえの強味を発揮するが、環境変化が激しい時代には異質の人材による多様な発想が求められる。
前例にとらわれがちなのは今も昔も同じ。
「自案と云うもの無しに先ず例格より入るは当今役人の通病なり」と手厳しい。前例が通用するかどうかをまず見極め、通用しなければ、それに代わる案を自分で考えよというのである。
面白いのは重職たる者は忙しがるな、というくだり。「小事」は部下に任せよ、そうして「随分手のすき、心に余裕」ができてはじめて「大事に心付く」のだという。
まさに重職の心得るべき知恵の宝庫とあって、当時の大名はこぞってこれを筆写したという。
さて、この心得箇条に照らして、現代の経営者を評価するとどうなるだろうか。
『経営倫理フォーラム』第22号掲載