トップページ > 経営倫理情報 > ニュースダイナミクス > 2015年7月24日配信記事
日本政府は7月17日、2030年時点で温暖化ガスの排出量を2013年比で26%減とする削減目標を決め、国連気候変動枠組み条約事務局に提出した。すでに米欧や中国はそれぞれの目標を提出済みであり、これで主要国の削減目標が出そろい(表1参照)、年末にパリで開かれる第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で合意を目指す地球温暖化対策の新たな国際枠組み(ポスト京都議定書)を巡る交渉が動き出す。京都議定書段階では目標数値の実現性、条約参加国の積極性などについて疑問視する声もあり、年末の会議が注目される。
表1:各国が国連に提出した2020年以降の温暖化ガス削減目標
| 目標年 | 基準年 | 削減率(%) |
|---|---|---|
| 日本 | ||
| 2030年 | 2013年 | 26 |
| 米国 | ||
| 2025年 | 2005年 | 26〜28 |
| 欧州連合 | ||
| 2030年 | 1990年 | 少なくとも40 |
| 中国 | ||
| 2030年 | 2005年 | 60〜65(GDP単位当たり)※ |
| ロシア | ||
| 2030年 | 1990年 | 25〜30 |
| 韓国 | ||
| 2030年 | — | 27(対策なしケース比) |
| メキシコ | ||
| 2030年 | — | 25(対策なしケース比) |
※中国は二酸化炭素の排出量
次期枠組みでは各国が自主目標を持ち寄るため、各国が自国の努力をいかにアピールするかがカギとなっている。
米国は2020年に2005年比で17%削減した上で、2025年の28%削減に向けて最善の努力をするとし、2020〜2025年の削減ペースを2005〜2020年の削減ペースから倍増する野心的な目標を掲げており、COP21での国際交渉を主導して「ポスト京都議定書」の枠組みに合意。オバマ政権の遺産にする考えだが、一方で国内では環境規制による石炭産業などへの打撃を懸念する野党・共和党の反発が強く、実現には困難も予想される。
EUは削減目標のほか、再生可能エネルギーのエネルギー消費に占める割合を27%に引き上げ、省エネにより、エネルギーの消費量自体を、対策をとらない場合に比べて27%減らす、という二つの「27%」目標を持つ。EUが高い目標を掲げる根底には、エネルギーは安全保障という考えがある。今後100年を見据え、石油や石炭、天然ガスへの依存を減らし、多様なエネルギーを様々なルートから確保する戦略だ。環境分野での新たな制度や技術で世界を主導したい思惑もある。しかし、高い目標達成の手法には問題もある。排出量取引制度が、排出枠価格の下落により、破綻同然の状態だ。改革案として、欧州議会などは5月、価格を一定以上の水準で維持しようと、「市場安定化準備制度」という新たな仕組みを19年に導入する案を承認した。
中国は、数値こそ大きいもののGDP比の数値であるため、成長が続く同国の排出量は当面増え続ける可能性が高い。だが、中国の交渉官は「途上国である中国と、先進国の目標内容に差があるのは当然」と主張する。また、インドなど新興国からは「温暖化の原因は先進国」「排出を抑制すれば経済成長を損なう」との声が上がる。
そのような中、日本も目標決定までには政府内の激しい綱引きがあった。当初2030年の電源構成案を基にすると、削減目標は「十数%」というのが経産省の見立てであり、環境・外務両省と調整を進め、「13年比で20%に乗せる水準」という折衷案が政府内で有力となった。だが、野心的な目標を米欧が打ち出す中で、低い目標では国際的に孤立すると恐れた環境省は巻き返しに動いた。環境省は国際エネルギー機関(IEA)の昨年の試算値をベースに「24%減」を最低ラインとして論陣を張った。最終的に「欧米に見劣りしない目標」を最優先した政府は、ほぼ大枠が固まりつつあった電源構成に手を加えた。排出量の多い石炭火力の比率を今の30%から、30年時点で26%に減らし、省エネの目標も2月時点の試算から1割上乗せした。電源構成の変更と省エネで21.9%分を稼ぎ、将来の森林整備による吸収などの効果と合わせ、26%を捻出した。また、目標の見せ方にもこだわった。05年比では日本は欧米に見劣りするが、13年比では上回る。だが、環境省は05年比という従来の基準をむやみに変えれば国際的な信用を失うと譲らず、国連に2つの削減目標を登録する異例の対応が決まった。
6月1日には、目標達成のために見直された2030年度の電源構成の政府案が経産省有識者会議で了承された。原発の停止で2014年度には88%を占める火力発電(天然ガス火力46%、石炭火力31%、石油火力11%)は56%(天然ガス火力27%、石炭火力26%、石油火力3%)に削減し、原子力は震災前(2010年度)の29%から引き下げるものの20〜22%へ、再生可能エネルギーは2014年度の12%から倍増(22〜24%)させる。ただ、この電源構成案にも課題は多い。
原則40年の運転期間通りに原発を廃炉すると、原子力の比率は30年に総発電量の15%程度になり、新増設なしに単純に増やすことはできない。そこで浮上したのが、既存の原発の運転延長だ。原発は、原子力規制委員会の延長審査に通れば、最大20年まで運転期間を伸ばせる。経産省は多くの老朽原発の稼働を前提に、20%を超える数字を積み上げたが、実際に何基の原発が規制委の延長審査に通るかは見通せない。
6月中旬には、山口県宇部市で進行中の大型石炭火力発電所の建設計画について、環境影響評価法(環境アセスメント法)に基づき、望月環境相から環境政策の観点から異議が唱えられるなど、東日本大震災以降相次いでいた石炭火力発電所の新設計画に、大幅な見直しが求められている。
また、再生エネルギーは12年に始めた固定価格買い取り制度により、家庭や企業の上乗せ負担が増えた。30年時点での上乗せ総額も4兆円ほどに膨らみ、負担は現在の3倍になる可能性があるという。
目標達成のもう一つのカギを握るのが、省エネだ。政府は省エネへの様々な取り組みにより、これを一切行わない場合と比べ、30年度のエネルギー総消費量を13%削減できると想定している。中でも自動車への期待が大きい。政府は12年度に普及率3%だったハイブリッド車を30年度には29%まで増やすほか、現在はほとんど普及していない電気自動車を16%、クリーンディーゼル車を4%、水素などの燃料電池車を1%に引き上げることを想定。これら燃費が良い次世代自動車の割合を、2台に1台にまで高めるとしている。
各家庭でも省エネを進める。電気使用量を管理して節電につなげる「スマートメーター」やLEDなど高効率照明の普及率は、ともにほぼ100%を目指すという。また政府は、目標達成に向け、「クールチョイス(賢い選択)」と題したキャンペーン実施も決めた。キャンペーンでは、省エネ性能の高い電化製品を選んでもらったり、エアコンの温度を適切に設定してもらったりするよう国民に呼びかける。
新築のビルや住宅には高い断熱性能を持たせ、冷暖房に要するエネルギーを抑える。こうした「省エネ建築物」の割合は、住宅やマンションで約3割、オフィスビルなどでは約4割にまで増やすとした。
政府が掲げた省エネ対策は、石油消費量に換算すると5030万キロリットルとなる。これは現在の石油の年使用量の2割にも及ぶ数字だ。また、経産省の有識者会議は、こうした取り組みにかかるコストを37兆円と試算しており、会議では「政府の省エネ対策は経済的な現実性を欠いている」との手厳しい意見も出た。
何はともあれ、日本は国際社会に対して正式に「2030年までに2013年比26%減」の目標を宣言した。目標達成には様々な大きな課題が立ちふさがるが、今後産業界はもちろん、日本全体に達成努力のための最大限の取り組みが求められることになる。
2015年07月24日配信