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トップページ > 経営倫理フォーラム > マイ・ノート 経営倫理 > 2018年08月15日配信記事

(9)美術館という組織に勤務して

執筆: ACBEE総合企画委員 経営倫理士 川瀬 暁

大学卒業後、某メーカーに就職し30年以上が過ぎ、昨年4月から縁あって美術館に勤務している。

 これまでの仕事で絵画や美術館に関係したことはなく、また個人的にも特別に絵が好きというわけでもなく、全く異分野の仕事である。

■まず 美術館 のミッションを考えた
 新しい仕事を始める時には、特にこれまで経験が無い仕事では、その仕事のミッションや目的は何かをまず考える。美術館のミッションは何かというと、「社会の文化レベルを向上させる」とか、「心の豊かさを育む」というのが一般的であるが、かなり抽象的である。
 やや具体的なのは「創造の共有」であるが、私みたいな平凡な人間は、残念ながら絵画をみて「創造」を感じるということはほとんど無い。ピカソの絵でも現代の絵画でも、抽象的な絵画で何が良いのか、よく分からない。

■英ナショル・ ギャラリーでの不思議体験
 昨年7月に出張でロンドンに行った時にナショナル・ギャラリーの展覧会を観た。ナショナル・ギャラリーは1200年代後半から1900年代前半までの作品を時代別に部屋を作り展示している。1800年代前半までの絵画は、基本的に人物でも風景でもとても細かい。人物画は顔の表情が生き生きと、ヒゲなど1本1本丁寧に描かれ、風景画でも家や木々が細かく描かれている。
 カメラが発明される前で、絵画は人物や風景をできるだけ被写体に似せて残す役割があったということがよく分かる。
 この様に精彩に描かれた絵画をたくさん観たあとで、扉を開けて次の部屋に入った瞬間、驚いた。絵らしきものが展示されているが、絵とは思えないのである。「何だ、これは?」というのがその時の素直な感想。
 写真みたいに描かれた絵画をたくさん見てそれに見慣れてしまうと、モネやルノワールの様な「ふわっとした」感じの印象派の絵画を、私の脳は絵画として受け入れられなかったのである。しかし次の瞬間、不思議な感動が湧き上がってきた。

■美術を感じさせる「創造力」体感して
 どうすれば当時の絵画の常識に反し、こんな絵を描こうと思うのだろうか。これが「創造力」というものか、と実感した。
 きれいな優しい色使いで日本でも人気のある印象派であるが、実は時代への反抗、前衛と考えると、その色使いや筆致が激しく感じられてくるから不思議だ。
 ナショナル・ギャラリーは、この創造力を感じてもらうためにこの展示方法を意図的に行っているのか分からない。しかし私にとっては強烈な経験であり、美術が感じさせる創造力とは何か、日の浅い美術館勤めの中で一筋の光を見いだした気持ちであった。
 先月、東京交通短大でACBEEの寄付講座の1コマで講義を行う機会を頂き、この経験をたくさんの絵画をスライドに投影し学生の皆さんにお話した。プチ「創造力」は共有できただろうか。



2018年08月15日配信


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