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企業・組織の経営倫理を推進する人材を育成・支援するNPO法人

トップページ > 経営倫理情報 > ニュースダイナミクス > 2016年8月19日配信記事

 昨年11月、全国自治体では初めて東京都渋谷区と世田谷区で同性カップルを結婚に準じる関係と認める「パートナーシップ証明書」「パートナーシップ宣誓書」発行をスタートさせた。「LGBT」性的マイノリティ(少数者)としての配慮を区内の事業者に求める動きで、他自治体への広がりを見せている。国内外で、そうした性的少数者たちの企業・事業所内など、働く場での在り方と取り組みへの理解、意識改革を求めるムーブメントとなった。ACBEEが取り上げる「ダイバーシティ」(企業で人種、国籍、性、年齢などを問わずに人材活用すること)の重要な柱の一つとして、7月22日に東京・有楽町のリファレンス新有楽町ビルで特別シンポジウム「『LGBT』と企業の対応」を企画・開催した。
 

働く場で何ができるか――やりとりで盛り上がったパネルディスカッション

 総合司会・榧橋ひとみ氏(イオン株式会社企業倫理チーム、経営倫理士)で、第1部はLGBTの活動家、創業時から機会均等を基本方針としている企業、そして法律家の立場から法制度の課題に取り組んでいる弁護士のパネリスト3人による講演、第2部はパネリストに加えコーディネーターとして昨年、関西で初めて開催された特別シンポジウム「『女性活躍』を生かす組織力」で基調講演した村松邦子氏(ACBEE理事、株式会社ウェルネス・システム研究所代表)と、バックアップアドバイザーにシニア産業カウンセラーとして誰もが働きやすい職場の実現を目指して活動中の舘野聡子氏(オフィス ブリーゼ、特定社会 保険労務士)によるパネルディスカッションの2部構成で行われ、LGBTへの新たな取り組みに会場の50人を超える参加者を巻き込んで熱い意見交換が行われた。  

第1部  パネリストによる講演


多様な存在である性的少数者の可視化へ

 第1部のパネリスト講演で、最初に立ったのは大手広告会社の社員で認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表の松中権(ごん)氏。テーマは「LGBTと企業の2つの接点〜初めてのLGBT〜」。会場の雰囲気を和ませるかのように、自身の名前にまつわるエピソードから語り始め、小学生の時に男の子が好きになって大学で自分がゲイであることを確信し、2年前にそれを公にするカミングアウト(Coming out)したことを明らかにした。
 自身の中で葛藤し、異常ではないかと煩悶している目に見えない性的少数者「LGBT(Lesbian/Gay/Bisexual/Transgender)」を、どうやって目に見える形に(可視化)していくか。それはひとくくりできる単純なものではなく、実は多様な存在で4つのセクシュアリティーも「からだの性」「こころの性」とあって、それぞれが抱える悩みや問題も違っていると、説明。最近は「SOGI」(Sexual Orientation and Gender Identity=性的指向と性自認、ソギ)という、人それぞれにあることだから尊重し合うべきという考え方も出て来たことで、その多様性を理解するムーブメントが起きている、とした。

 企業とLGBTの接点について、@職場で働く当事者を抱える企業がいかに職場環境を目に見える形にしていくか(環境がサポートされていれば、7割の人がその企業で雇用されたいと考えている調査がある)、Aまた対外的には商品やサービスを買ってくれる人たち、あるいは企業などの対象向けに、LGBTを“見える化”していくことによって新たな広がりのマーケットが生まれることをあげ、実践している企業などの事例を紹介した。意識改革によって職場が変わり、カミングアウトが増えれば制度も変わっていくはずと訴えた。


創業1世紀を超える「機会均等」「多様性の尊重」

 次に1911年の創業時から従業員の「機会均等」と多様性を尊重してきた米国IBMの日本法人「日本アイ・ビー・エム」で、人事・ダイバーシティ担当の梅田惠氏が「わが社の取り組み」と題して、そのポリシーと経営危機に直面した時にも社を救った変わることのない姿勢と、「LGBT」の具体的な施策、取り組み、社会への働きかけを紹介した。

 ダイバーシティを企業変革の原動力としてきたIBMの歴史をたどることから話を始め、人材の多様性が生み出すさまざまな価値観こそIBMの競争力の原点とした。2015年には「LGBTが働きやすい会社」調査で、14年連続トップ。1953年には、CEO(最高経営責任者)が「機会均等」に関するポリシーを常に社員と共有するというポリシーレターが発行され、現在も続いている。1992〜93年、日米IBMが同時に経営危機となった試練のときもダイバーシティ尊重の姿勢は崩さず、乗り越えられたとしている。
 日本IBMの取り組みとして、5つのダイバーシティ委員会を設け、2002年にはLGBT社員が自分らしく安心して働ける環境の整備を実践している。ことし1月から新設されたのは「同性パートナー登録制度」で、これによって特別有給休暇や休職扱い、慶弔見舞金などが適用されるようになったことを紹介した。
 社会への働きかけでは、「次世代LGBTが未来に希望を持つことができる社会へ」の旗印のもと、企業を超えたLGBT応援の取り組みを行っている。職場とLGBTをテーマに当事者がさらに活躍できる環境を整えていくための情報交換の場所として、年1回、異なる企業に会場を提供してもらい活動の広がりを図っている。掲げるスローガンは、「Work with pride」(誇りをもって働こう)だが、「pride」はLGBTにとって働きやすい職場を実現するための5つの評価指標(Policy:行動宣言など)の頭文字でもある。「5年になる取り組みですが、その火を絶やさないよう引き継いでいってもらいたい」と語った。


法の不整備を挙げ同性カップルの権利保障を求めて

 「法整備が行われていない現状では、性の在り方についてマイノリティと言われる人々は日々、さまざまな場面で困難に直面しており、その困難を当事者自らが乗り越えなければならないという状況に追いやられている」―LGBTにみる現在の制度の問題点と改革の方向について、最後の講演に立った弁護士の寺原真希子氏(弁護士法人東京表参道法律事務所共同パートナー)は、テーマ「現在の制度の問題点と改革の方向」の講演で、こう締めくくった。さらに「重要なことは、法が整備されることで全てが解決するものでないことは当然であるが、社会の意識は法の存在によって大きく影響される」とも。
 講演は「LBGTを取り巻く環境」から始まり、日本での法制度として唯一2003年7月成立、翌年7月施行された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(特例法)と、日本には性的指向や性自認を理由とした差別の禁止を明記した法律がない現状、同障害に関する裁判例などを説明した。
 LGBTを取り巻く環境としては、日本社会に深く根付いている差別意識(宿泊施設などの利用拒否や、都内の公園で起きた青少年グループによる同性愛者への襲撃と殺人)、LGBTの若者の約7割がいじめや暴力を受けた経験があり、そのうちの3割が自殺を考えたという調査結果の紹介とともに、人権問題として学校・家庭で教育されるべきなのが不足している実態が挙げられた。
 特例法については、性別の取り扱いを変更する要件として、性同一性障害者で20歳以上、現に婚姻していないことなど、5項目を挙げていることに対し、また差別禁止法や同性カップルの権利保障などについて法律家と人権擁護の視点で、課題が多いことを問題提起。「性的少数者の問題は、『限られた特定の人の特有の問題』ではなく、多様な存在である個々人がありのままの存在として尊重されるべき社会全体の問題であり、人権に関わる問題」と結んだ。


 第2部  パネルディスカッション

 第1部のパネリストによる講演を受けてのパネルディスカッション。それぞれ専門分野で取り組んでいる3氏の、さらにテーマを深く掘り下げた企業や団体での事例報告がなされ、LGBT、ダイバーシティ(多様性)への認識を深めた。やりとりの中で出てきた「どこで“スイッチ”が入るか」という、差別のない社会へ向けた企業の意識改革のきっかけを持つ必要性が叫ばれた。(主な発言の要旨を列記)


《課題解決へ向けて》

(梅) 企業だけでなく、NPO組織などと共同してネットワークが広がっていると感じて いる。アメリカでは企業が資金を出して「LGBT」に関わる調査などしており、 企業を超えて、例えばトランスジェンダーの手術費用などの面で健保組合や生命保 険会社に意識改革を求めることもいいのでは。
(村) いま一企業、一NPOだけでなく、みんなで課題を解決していこうということだが、 「一緒に社会をよくしていこう」というモニュメントは最初の切り口が難しい。
(寺) 若い世代で、「ほっといてくれ」という声も聞く。当事者も個々求めるものが違う。 それだけに、非当事者のいわゆるAlly(アライ:支援者)と呼ばれる人のできるこ とは無限にある。松中さんの「Well coming-out」という言葉、すごく印象深く聞い た。
(舘) 昨年、渋谷区で発行をみた「パートナー証明書」を機会に、経営倫理士として、ま た社会保険労務士としてお付き合いのある企業などの方々から「これからどうした らいいのか」などと問われ、証明書のインパクト、職場での盛り上がりを感じた。
(松) 渋谷区に住んでいる。パブリックな存在で認められたことで勇気をもらえた、とう れしい半面、皆と一緒ではないんだという思いもあった。
(梅) ダイバーシティを担当していると、フレックスタイム制度の扱いなどで労務担当と 戦う場面がある。日本の人事制度は、規格に合わないものは弾かれる傾向がある。 2011年には同性同士を含む事実婚も結婚祝い金の支給対象となった。福利厚生の面 では、どこに住んでいても制度を利用できることを望むが、企業ではなかなか証明 書を出せない。渋谷区の場合は条例に基づいて証明書を出しているので、効率的で 効力があると思う。
(寺) 企業の関係というより実際に直面する問題だ。住宅の賃貸借契約で共同ローンを申 し込むとき、同性カップルが入ろうとすると断られる。法律ではなくても自治体の この証明書があれば効力と影響力をもって解決できる。もっと広がってくれれば、 法の面でもうれしい。

《カミングアウトで広がりとつながり》

(村) 企業の倫理観、姿勢も問われる。コンプライアンスの面でも企業などのトップに伝 えていくことが大事だ。“広がり”というが、LGBTも結局は人と人との人間関係。 それは職場の中で考えていくと女性や障害者に対する課題と同じで、経営のこと、 働きがいなどにつながっているように思えるが。
(梅) MTF=男性が女性に変わった30代の協力会社の課長がいる。結婚している魅力的 な“女性”で、奥さんの理解もある。そして、何が変わったか。一つは仕事がしに くくなった、もう一つは通りが歩きにくくなった、という。
 職場で仕事について意見を聞かれなくなり、無視され、意見を言うと「女のくせ に生意気」と言われる。ただ、「お願い」は聞いてもらえるようになったという。
通りを歩いていると、女性とぶつかることが多くなった。男性は女性がくるとよけ てくれるが、女性はそうではない、と。両方の性を経験して、まさに当事者の話と して熱心に聞いてくれる。
(寺) すごく象徴的な話だ。かつ女性の置かれている立場とLGBTのそれとで共通する 部分があるのかなと感じた。弁護士会では両性の平等に関する委員会があって、 5年ほど前にLGBTの活動を初めて開始した。はじめは私と1、2人でしかなか ったが、性的なマイノリティで不利益を被るという立場で、委員会の中で知識とか やる気がすぐ広がって理解してもらえた。LBTが決して特殊ではなく、ほとん どの人に共通するものと感じた。
(村) 世代にかかわらず、からだの特徴とか横串で関わってくる問題。もう少し広く考え てみたときに組織の中の変化というか、会社としてLGBTにフレンドリーな会社 であるところを活動していくとか、カミングアウトする人が増えているとか組織の 中でどのような活動をしているのかを。
(松) 自分が2011年にカミングアウトしたものの、あと2、3年誰も出てこなかった。 個人的にどこが変わったかというと、すごくストレスを感じていたことに気づいた。 当事者は、突然2カ月前にゲイになるわけではなく、会社で働いて何10歳とずっと 当事者として生きてきて、社会の差別や偏見にさらされて来ているので、それをう まくこなすワザというか、本当は心に刺さるのだけれど、刺さってないように受け 流すことで、知らない間にストレスと感じないよう自己防衛していた。何か見えな いオブラートのような幕を自分で張っていた。それに気づいていないだけで本当は いろいろなストレスを抱えていたと思う。
 自分の発言の一言で、(当事者と)ばれてしまうのではと考え、同僚とかチーム との関係が希薄となって、なるべく関わらないように振る舞うようになってしまう。 そうすると日本の会社では仕事後の関係も大事なので、飲み会や食事会に誘われて も断ってしまい、「冷たいやつだ」とお互いにどんどん離れて行ってしまう。 カミングアウトしてからは何か生活とか人生が劇的に変わったわけではないが、 普通に隣にいる職場の同僚と会話することに何の ハードルも感じなくなった。
 ただ、一緒にいると誰かにその友人もゲイであると知れてしまうとあって、会食する場所などにも気を遣った。

《多様性と制度に絡む課題》

(村) 百人百様、多様性が言われる中でカミングアウトするということは、センシティブ な段階だし、それを本人がどう捉えてどう行動するかはすごく選択肢が多い。それ だけに企業も慎重に、ということはよく聞く。企業の担当者の悩みとして耳にする のは「制度改革とかをどんどんやってもいいのだけれど、カミングアウトする人は この制度、しない人はこれ、でいいのか」という点。
(梅) IBMが民間調査会社と協力して調査した結果によると、カミングアウトする前と 後では15%ぐらい生産性が違うことが分かった。「週末何をしていたか」と何気なく 聞かれたことに「彼といた」というのを「彼女といた」と言い替えて、そのつじつ ま合わせに能力を使っていたり、ウソをついてしまったという意識で15%ロスした とみている。
 Kさん(男性、課長)は、2004年に人事にはカミングアウトしていて、昨年職場 にもカミングアウトしたら活動の幅が広がり、まるで別人のようだった。また、セ ミナーのときにカミングアウトした若い社員の場合は、逆に変に気を遣われてしま い飲み会にも誘ってもらえなくなって困ったという話もある。
(寺) 弁護士会も理事会があって、弁護士研修にLGBTを滑り込ませたり、理事に研修 するとか5年ほど前からやっている段階。ただ、まだ規則もないし、民間企業のよ うに就業規則をみてくださいと言える立場でもない。ただ、弁護士の場合、自分の いる組織プラス自分のクライアントである企業や個人と接するわけで、その接し方 が研修を行うことにより今までと変わってきているはず。間接的には企業に影響を 与えることになるのかな、と期待している。
 月に2回、LGBT無料相談している。人事や法務の方から電話がかかってくる。
「できる限り自認する性に沿った対応をしてあげたいが、どう対処したらいいのか 分からない」という。たとえば女性トイレを使いたいのだけれど、見かけは男性な のでほかの女性がびっくりしてしまうのでは、と。そういう質問があること自体大 分認識が進んできたと言えるし、弁護士会に相談する場ができたということで周知 されてきたのではないか。企業と一緒に弁護士会も学んで進めていきたい。
(梅) トランスジェンダーの方へは、配慮が必要かなと思う。企業の採用で内定者の健康 診断がある。戸籍上の性が変わっていないと戸籍上の性で案内が届くわけで、それ は早めに適切に中断してもらえれば案内が変えられる。
 もう一つのケースで、突然今まで男性だった人が、女性の格好で会社に来てしま ったことの相談。エンジニアで顧客の銀行に常駐していて、仕事がすごくできる人 で外れたら困る、という。仕事ができることに注目してやってと、お客さまに率直 に話をしたら「今はもうこういう時代だからいいですよ」ということになった。ト ランスジェンダーの人はLGの人とカミングアウトはちょっと違う。
(舘) 社務士として企業に関わらせてもらっている。ある企業規模の小さい会社で聞いた 話で、去年MTF(男性から女性へ)の方を採用するのに、更衣室は空いている会 議室があるからそこを使ってもらい、トイレはもともと男女共用だとして採用した という。頭で「ああしなくては、こうするには」と考えてしまいがちだが、それを 飛び越えてしまった事例を紹介した。

《何から始めたらいいか》

(村) カミングアウトとか職場の対応について、全体のLGBT意識改革が重要になって きている。これを進めるために、何から始めたらいいのかアドバイスを。
(松) こういうシンポジウムの形をとった勉強会があるだけでも、活動を進める当事者に はありがたい。知ると知らないでは大きな差が生まれる。知る機会をどんどんつく っていくことが大事か。また、うちの社っぽいことだが、社内のこととかは進まな いのだけれど、「お得意さんが」というと皆動く。実は会社ごとにカルチャーがあっ て、その会社を変えていくスイッチは実はいろいろあって、その会社が変わりやす いスイッチがあるので、出るときは必ず人権とかを理解しましょうだけでなく、マ ーケットの話をしてお得意さまには、こういうサービスをしますとか話しをすると 普段研修に来ない営業マンも参加する。
 お得意さんにはトピックをつくるとか、当社では全社員で人権スローガンをつく っている。たとえば、女性差別とかいろいろなジャンルがあって、自分で選んで 「コピー(宣伝文句)を書きましょう」という感じ。その会社らしいやり方で、「こ のトピックについてうまいことを言ったコピーを書きましょう」と。企業ごとにス イッチがちょっと違う。あとは会社のパワーを持っている人に会って、「あの人を捕 まえれば絶対に動く」という人を紹介してもらい、推進力のある人を捕まえてその人 が動きやすいところから入っていくことだろうか。
(村) LGBTだけでなく、コンプライアンス推進やCSRにも通じる。「同業他社」を出 すのが有効ですかね。今がチャンス。
(梅) わが社のスイッチは「グローバル」だろう。社内でも「何から始めたらいいのだろ う」と聞かれることが多く、そういう方のガイドになればというので、先に紹介し た「プライド指標」をつくった。まずは行動宣言をしてくださいとか、階段を上る ようにやっていけばいいと。女性活用に沿ってやってきたことをそのまま活用でき るし、LGBTってジェンダーの話と思う。その対象を広げるぐらいの考えで、今 まで特別考えずに配偶者としていたものをパートナーに置き変えるだけでかなう。
(寺) いろいろなスイッチがあるということだが、弁護士会の例では数年前から草の根的 に地道に委員会だけでやっていた。それを弁護士会全体に広げたいと思うようにな った。しかし、研修しても関心がある人しか来ない。そこで理事長会の会長らに理 解してもらうのが早いと、研修した。「目からウロコ」という反応もあった。利用で きるものは利用すると割り切りたい。まずは周知してもらえればいい。

2016年8月19日配信

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