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2025年問題の処方箋(3)
新たな処遇改善で「介護離職ゼロ」?


ジャーナリスト 楢原 多計志

2018年4月、介護報酬が改定された。かろうじてプラス改定(0.54%アップ)になったものの、介護事業者の不満と経営不安は解消していない。総じて基本報酬が据え置かれたため、基本報酬に上乗せされる加算を取らないと、収入増につながらないからだ。しかも、加算を取るためには必要な介護職員を配置する必要がある。介護職員不足がより深刻になる中で、政府は外国人労働者の受け入れ拡大を目指し、出入国管理法(入管法)改正案を臨時国会に提出する一方、消費増税の歳入増を見越して離職防止のため新たな処遇改善(賃金引き上げ)策を打ち出したが、早くも介護現場から疑問や不満が出始めている。

■処遇改善策と介護報酬改定で

11月22日、厚生労働省の社会保障審議会・介護給付費分科会は、厚労省が示した「新たな処遇改善案」と「消費増税に伴う介護報酬改定(19年10月改定)案」を大筋で了承した。12月中旬までに開かれる会合で審議報告書を取りまとめて厚労省に提出する見通しとなり、これを受けて厚労省は来年度政府予算案に必要な財源を計上する方針だ。

「新たな処遇改善策」の大きな狙いは、さらなる賃上げによって介護職員の離職に歯止めをかけて、安倍政権が掲げる「介護離職ゼロ」を実現させること。ポイントは@公費2千億円(国と地方自治体で折半)を投じ、介護報酬の新加算(加算名は未定)として給付するA「経験や技能のあるベテラン介護職員」を最優先し、「その他の介護職員」「他職種の職員」の順に(加算取得の給付を)傾斜配分してそれぞれの賃金を引き上げるB介護職員が勤務していない事業所は加算の対象としないC事業所にキャリアパス(昇給昇任)や研修(ケアリーダー研修など)を制度化していることを加算の算定要件とする─の4点。

■賃上げで保険料引き上げも

それぞれに課題や疑問が浮上している。@「ベテラン介護職員」の解釈や範囲をどうするのか。厚労省は「勤続10年以上で経験豊富な介護福祉士(国家資格)を指すが、柔軟な運用が望ましい」と説明している。加算の配分は加算を得た事業所に一任する考えだが、10年以上の経験者をリストアップする場合、一時休職や時間給バイト経験、他の職種経験の取り扱いをどうするのか、事業所任せで良いのか、事業所によって算定にバラつきが出たり、介護職員間で処遇に不満が出たりしないのか、「はっきりしない」が多い。

A介護保険は利用者負担(1〜3割)を除いた介護費用は国と自治体の負担金(税金)と加入者(被保険者)の保険料で賄われている。つまり賃上げは保険料の引き上げにつながる。介護保険制度がスタートして18年が経過したが、改定のたびに保険料が引き上げられてきた。消費増税の実施時期(19年10月)に合わせ、さらに保険料が引き上げられることについて、保険者(市町村広域連合や健保組合など)や若い加入者が反発しないだろうか。

■公平で持続的な制度に

B加算が算定できる事業所は介護職員が働いていることが必要条件。例えば、介護職員が配置されている特別養護老人ホーム(特養)などは算定の対象となるが、介護職員のいない訪問看護ステーションは対象外。同じケアマネジャーの場合、介護職員のいないケアマネジャー中心の居宅支援事業所はダメ、特養ならOK。また福祉用具貸与事業所の介護福祉士資格者も対象にはならない。「差別だ」との声もある。

C算定要件であるキャリアアップや研修を制度化しているのは特養などの大規模事業所に限られているのが現状であり、少人数でパートが多い訪問介護事所などにとってキャリアアップや研修制度の導入はハードルが高すぎるようだ。

安倍首相は、開会中の臨時国会の所信表明でも「経験・技能のある介護職員の皆さんの賃金を月額8万円引き上げ、“介護離職ゼロ”実現を目指します」と明言した。しかし、新たな処遇改善によって介護職員が職場に定着するかどうか─。現時点では不明瞭な要素が多い。特養の施設長は「不平等にならないよう公平かつ持続的な加算の仕組みにしないと、職員が築いてきた良好なチームワークが一気に崩れ、大量退職につながりかねない」と懸念している。


2018年12月07日配信

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