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2025年問題の処方箋(2)
抜本的な薬価制度の行方


ジャーナリスト 楢原 多計志

薬価制度は医薬品の価格を決めるルール。ほぼ2年ごとに見直されてきたが、最近、画期的な医薬品の発売や後発医薬品(ジェネリック)の普及などによって市場の構造が大きく変わり、頻繁に手直しが行われている。厚生労働省は平成30年(2018年)の薬価制度を“抜本改革”と位置付けた。どこが抜本なのか、医薬品業界はどう受け止めているのか。30年度改革のポイントと業界トップの声をまとめた。

■革新的で高額な医薬品に柔軟対応できず

「まるで“オプジーボ改革”ですね」。大手製薬会社の販売担当執行役員は30年度薬事制度改革の意見を問われ、苦笑を浮かべ、そう答えた。
 オプジーボは、2014年7月に薬事承認された「悪性黒色腫」の画期的な治療薬。同年9月、100r1瓶72万9849円という超高額薬価が設定されたが、非小細胞がんにも適用が拡大されたことから前回改定(16年度改定)では薬価引き下げの対象から外れ、高額な価格は維持された。当然、マスコミや与党内から薬価制度の在り方が問題にされた。
 それまで薬価は基本的に2年ごとに見直されていたが、「他の疾病にも効果がある」として適応拡大が承認された場合、その時期によっては見直しの対象にならないケースがあり、オプジーボはタイミングがずれたため引き下げを免れた(後年、大幅に引き下げられた)。
 今年1月、厚労省は中央保険医療協議会(中医協)の場で30年度改革の第1の目的について、「革新的かつ非常に高額な医薬品に対して現在の薬価制度は柔軟に対応できず、国民負担や医療保険財政に与える影響が懸念され、抜本改革を行う」と説明した。2年ごとの見直しでは対処できないことを自ら認めた。

■加算制度見直しなど抜本改革の3本柱

では、どこを、どう抜本改革するのか。厚労省が示した抜本改革の柱は?原則2年ごとの薬価改定を年4回に見直すA全品を対象に毎年薬価調査を実施するB新薬創出・適応外解消促進加算制度をゼロベースで抜本的に見直す─の3つ。
 具体的には、@オプジーボのように効能の追加などによって一定規模以上に市場が拡大した場合、新薬収載(随時実施中)の機会を最大限活用して年4回薬価を見直すA市場実勢価格を反映させるため現在の年2回の薬価調査に加え、その間の年にも大規模事業者などを対象に薬価を調査し、価格が乖離(かいり)している(薬価と実勢価格が大きく異なる)品目の価格を改定するB革新的な新薬を創出するための加算制度を根本的に見直し、その際、費用対効果を評価する手法を導入して評価の高い医薬品の薬価を引き上げる─という。

■納得の具体策へはまだ視界不良

しかし、医薬品業界の受け止めはクールだ。莫大な資金を投じて画期的かつ革新的な売れ筋の医薬品を研究開発して販売しても、年4回も薬価が引き下げられたら、当初の収益計画に大きな狂いが生じかねない。
 また現行の薬価調査は「どんぶり勘定」(前述の執行役員)で、薬価と実勢価格を単純比較して、製薬会社の販売努力や販売経費はあまり考慮されていないという。厚労省は価格乖離(かいり)している医薬品の調査方法を19年中に提示する予定だが、医薬品業界では不信感が拭えていない。
 費用対効果評価による薬価改定に対しても不信感を募らせている。関西の大手製薬会社のトップは「(厚労省は)第三者的な視点で評価する仕組みを19年中につくると説明しているが、“初めに薬価引き下げあり”では、研究者も営業社員も意欲を失う」と懸念する。
 とはいえ、29年度の概算医療費によると、労災などを除く医療費はざっと42兆2億円。前年度より約9千億円増え、再び増加傾向を見せている。財務省は31年度予算案編成を前に、「医療費の抑制効果を目に見えるものにしてほしい」と厚労省をけん制。これまで厚労省は薬価引き下げで生じた財源を医療機関へ回して帳尻を合わせてきた。財政当局と業界の双方を納得させるような抜本改革の具体策を示せるかどうか、視界不良が続いている。
 第3回は介護。


2018年10月15日配信

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