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人手不足なのに賃金の低迷続くのは・・・・
日本記者クラブで、山田久氏(日本総研)が講演

安倍首相は「3%賃上げ」を経済界に重ねて要請している。その中、日本記者クラブが主催する2018年経済見通し研究会シリーズの一環として、日本総研調査部理事・山田久氏が、「2018年労働市場の課題〜『生産性低迷・賃金伸び悩みの悪循環』の打破に向けて〜」と題して講演した=写真。日本社会の課題である、人手不足・生産性低迷・賃金の伸び悩みが形成される問題構造を解説し、それを打破するための政策、労使自治のあり方など多面的なアプローチの必要性を提言した。


■ 雇用維持偏重型の日本労使関係が背景に

 日本社会は、人手不足下にあるにも関わらず賃金の低迷が続くという奇異な現象が起きている。同氏は、人手不足の理由は、単なる人口減少問題ではなく、日本企業の付加価値生産性が低いことにもあると指摘し、それにより賃金が伸び悩んでいる社会的構造を説明した。

 実際に、日本企業の付加価値生産性は主要先進国との比較において低迷していることは統計データからも明らかである。その背景には、雇用維持偏重型の労使関係が原因しているという。

 我が国の労使関係の特異性として、不採算事業であっても「雇用維持」が優先され、従業員はそのための賃下げを受け入れる傾向にある。非正規雇用者が増えたことによる賃下げに加え、正規雇用者も企業に対し賃上げ交渉をしないことが一般化している。一方欧米においては、企業の財務状況に応じた雇用調整に対する社会の受容度が相対的に高い。さらに、欧州において労働組合が企業別ではなく産業別に組成されていることにより、賃下げが起こりにくい利点に触れ、日本においても中長期的には本格的に雇用システムを見直す必要があると述べた。

 かつてインフレを経験していた時代は、日本の労使関係の特徴は上手く生かされていた。しかしバブル経済崩壊後、採算性のない部門にも人員を残さざるを得ない労使関係の下、値下げ競争、過剰供給に陥った。日本企業の労使関係の特徴であった「雇用維持」が、現在は足かせとなっている。各国ともグローバル競争にさらされ、モノの値段は下がっているが、サービス価格は上昇傾向にある。サービス価格が上がっていないのは国際的にみても日本のみである。その要因として、90年代に日本市場の内外格差が指摘されて以来、未だにサービス価格を上げないマインドセットが浸透しているものと考えられる。「この社会通念を打破する必要がある」と、同氏。さらには、不採算企業が多く存置され、過当競争体質によって値上げが難しい状況にあることなどを挙げた。過当競争の是正、春闘による賃上げ機能の復活により、企業側と消費側両方からアプローチを図ることが求められるとした。

 さらには、企業の消極的な姿勢も原因しているとした。企業は手元に賃上げに回すことのできる流動性資金があるにも関わらず、それをしない。その理由は、将来人口減少、市場縮小により売り上げが下がる可能性、あるいはリーマンショックのような危機が発生する可能性に備え、あらゆる事態においても雇用維持を大事するためである。

■低生産性、賃金停滞など労働市場の課題分析

 日本社会が抱える「人口減少」の問題も、企業経営者のマインドを消極的にさせる要因となっている。同氏は、この問題に対し、適切な政策を実施することで一定程度の現象はオフセット可能であり、人口減少下であっても成長は可能であると述べた。具体的には、短期対策として訪日観光客の誘致策、中期対策として外国人労働者受け入れ・定住化政策、長期対策として出生率回復策を上げた。

 また、今後は従来労働力の中核を担ってきた男性現役世代が減少し、多様な人材の活躍が不可欠になる。働く人々が多様になれば、多様な働き方を認めるとともに、それぞれの働き方に対する公正処遇等も不可欠になってくる。「生産性を高めるにはダイバーシティ・マネジメントへの取り組みも欠かせない。」

 この度の講演で、同氏は、低生産性・賃金停滞という悪循環の背景には、雇用維持を最優先する傾向が強い(日本型)労使関係、本来適切に値上げされるべきサービス物価の低迷、人口減少から生じる消極的なマインドが、原因であると説明した。それを打破するためには、従来の雇用システムを見直し、日本の良い部分を残しながら欧州の雇用システムを参考にした日本型と欧州型の「ハイブリッド・システム」の構築、社会全体での雇用安定といった労使自治の再構築にある、とまとめた。


2018年01月25日配信

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