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トップページ > 経営倫理フォーラム > コンプライアンス春秋+ > 2017年12月24日配信記事

薬価から探る医療の行方 (中)
◎「費用対効果」で薬価削る?


ジャーナリスト 楢原 多計志

医療費増加の大きな要因になっている高額薬や最新鋭医療機器。その価格(薬価)を「費用対効果の評価」を加味して決める制度を検討する─。厚生労働省と医薬品業界が激しく対立していた薬価見直しの方針が2017年12月、ようやくまとまった。だが、医療費削減の“特効薬”にしたい厚労省と薬価維持で経営安定を図りたい医薬業界の「対立の構図」は変わっていない。第2ラウンドが始まる。

■高額薬を狙い撃ち?

2016年度の概算医療費(速報値)は約41兆3千億円。その約2割を医薬品や医療機器、医療材料が占める。発売当時、1錠約73万円もした「オプジーボ」(がん治療薬)が問題視された時期をとらえ、厚労省は高額な医薬品や医療機器などの薬価の再算定に「費用対効果評価」を導入する方針を中央社会保険医療協議会(中医協、厚労相の諮問機関)に示し、「オプジーボ」など対象とする試行的導入に踏み出した。
 一方、中医協のヒアリングで日本製薬団体連合会や米国研究製薬工業協会などは「本格導入されると、最大90%も薬価が引き下げられたら死活問題だ」「導入した国(英国など)では導入でイノベーションが阻害されている」「日本には精緻な薬価基準制度があり、費用効果評価は(算定の)補足に位置付けるべきだ」「医療機器を使う介護施設への影響を考えているのか」などと売れ筋を狙い撃ちするような制度に反対や異論が続出した。
 中医協の委員からも「科学的な観点からの分析や検証だけではなく、患者の意思や情報開示が必須であり、倫理的、社会的な影響も考えるべきだ」「製薬会社の新薬開発意欲を阻害し、政府の画期的新薬創出政策と矛盾しないか」などの意見も出た。

■業界への配慮も

12月20日、こうした意見を踏まえ、厚労省はこれまでの議論を整理するとともに制度化に向けた課題などを方針案として中医協に示し、大筋で了解を得た。プロセスの一部非公開や第三者機関の再分析など、業界への配慮がうかがえる。
 ポイントは、試行的導入の対象品目は「オプジーボ」、「ハーボニー」(C型慢性肝炎治療薬)、「バーサイスDBSシステム」(パーキンソン病などの理学診療用器具)など13品目、企業にデータ提出義務、再分析を行う第三機関と総合的評価を行う専門組織の設置など。制度化に向けて18年度中に対象品目の選定や価格調整などについて結論を得て、19年度の本格的導入を目指すという。
 だが、業界の受け止め方は極めてクールだ。大阪の総合医薬品メーカー役員は「莫大な開発費をかけて売れ筋になった高額薬は経営の“命綱”。大幅な引き下げは一時的な収益悪化にとどまらず、次の新薬の開発資金をねん出できなくなり、企業の衰退を招きかねない」と憤る。
 また背景には医療行政への根深い不満、不信がある。診療報酬が改定されるたびに薬価が引き下げられ、生じた財源が実質的に医療機関への診療報酬へ回されている。
 12月18日に決まった30年度診療報酬改定率は全体で1.19%の引き下げ改定となった。しかし、内訳を見ると医科+0.63%、歯科+0.69%、調剤+0.19%と診療報酬がいずれもプラス改定なのに対し、薬価は▲1.65%、医療機器などの材料価格▲0.09%とともにマイナス改定となった。 「医療機関団体や支持政党は『プラスだ、プラスだ』と喜んでいるが、われわれ医薬品業界はマイナス改定が続いていることを深刻に受け止めている。医療機関を優遇するために政策的に薬価引き下げが行われていると」と言い切るメーカー役員も。
 では、「費用対効果評価」の導入が患者、家族にとって朗報となるか─。検証方法や価格決定の手法など具体的な内容はこれから議論される。「効能に見合う薬価」を期待したいが、まだ先が読めない。


2017年12月24日配信

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