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トップページ > 経営倫理フォーラム > コンプライアンス春秋+ > 2017年12月22日配信記事

企業不祥事が続発している。特に2017年度では、不祥事の内容が多様で対象となる業界も広がってきている。今夏以降、メーカー中心に品質データ改ざんが拡大、さらにリニア不正受注事件も発生した。今注目されているのが、不祥事を起こした企業のトップの記者会見。テレビをはじめ日刊紙、週刊誌で大きく取り上げられ、国民の関心も高まっている。「危機管理と記者会見」がスタート、シリーズで掲載。多様な事例を提示し、分析、課題にアプローチする。ビジネスパーソンに即役立つ情報、ノウハウを提供するシリーズです。


危機管理と記者会見 <第1回>


「クライシスマネジメントとしての社長の謝罪会見」

■問われる「説明責任」と「世論の信頼」

  1. なぜ、誰に、何を、謝罪するのかを明確にする
     ある大企業の地方の工場が大火災を起こして5000人以上の近隣住民が避難を余儀なくされたことがありました。謝罪会見でこの会社のトップは納入先のメーカーへの供給責任を果たせないことを真っ先に謝罪しました。謝罪すべき相手の順番を間違えていました。真っ先に謝るべきは安心や安全を脅かされた地域住民であるはずです。
  2. 何はともあれ、まず“おわび“で誠意を示す
     起こってしまったことは仕方がありません。会社の言い分、自分の言い分は封印して、誠意を持って謝罪することがもっとも重要です。
  3. 逃げない、隠さない、ウソをつかない、を貫く
     これは、不祥事広報の原則中の原則です。逃げると追いかけられる、隠すと不必要なことまで公表せざるを得なくなります。小さなウソは、さらに大きなウソにつながります。
  4. 責任回避、責任転嫁はタブー
     「実害はなかった」「どこもやっている」「部下がやったこと」、「聞いてなかった、知らなかった」、「法律には違反していない」、これらの弁解はトップが決して言ってはならないことです。
  5. 迅速かつ最大限の情報開示、そして継続的情報発信
    (事故や不祥事の場合)最低限の事実確認ができたら速やかに公表(記者会見)する、これがイロハです。 その上で、発表内容が二転三転するのはタブー、ノーコメントはもっとタブー、判明していないことは公表できる時期を約束すればいいのです。

以上の5原則に反する謝罪会見は、相変わらず続いています。いくつかの事例を「他山の石」として確認しておきます。

■社長の記者会見次第で、イメージダウンも

事例 ≪責任転嫁に終始した阪急阪神Gの社長≫
 2013年10月22日に発覚した阪急阪神ホテルズグループの食材偽装表示の社長の謝罪会見対応は最悪でした。

  1. 公表遅れ。社内調査で問題を把握してから3カ月、消費者庁に食材偽装を報告してから2週間、公表しなかった。
  2. 社長が逃げた。総務人事部長が最初の記者会見、その2日後に社長と常務が謝罪会見した。
  3. 偽装表示を責任転嫁した。「現場の料理人が表示のミスはたいした問題ではないと考えていた」「納入業者がトビウオの魚卵をマスの卵だとして納品した」など。
  4. 「偽装ではなく誤表示だ」と社長は言い張った。系列ホテル8つの23店舗で、47品目のメニューの食材表示を偽っていたのに、「誤表示」で言い逃れられると思い違い。
  5. 辞任に追い込まれた社長は、辞任の理由を「阪急阪神グループに迷惑がかかるから」と説明した。謝罪すべき相手を間違っていました。


事例 ≪社長が最初の謝罪会見を回避した神戸製鋼≫

 2017年10月8日、 神戸製鋼は突然、アルミと銅関連の事業で品質データ改ざんがあったと副社長が発表しました。ことの重大性から見れば社長が会見すべき事案です。その5日後(体調が悪いからと最初の会見を回避した)社長が謝罪会見しました。そこでさらに新たなデータ改ざんが明らかにされました。その後は社長が対応しましたが、新たなデータ改ざんが次々に公表され、「底なし」とすら報道されました。後から考えると、いきなり社長の謝罪会見は避けるべきと広報部隊が考えたのかもしれません。神戸製鋼の広報は、秘書広報部であることが、トップに近過ぎて、社内不正の把握が遅くなったり、発表のタイミングを間違う遠因になった。


事例 ≪公表する気のなかった東レの社長≫

 2017年11月2日にタイヤコード関連子会社の品質データ改ざんの発表をした東レの社長は言ってはいけないことを言ってしまった失敗例です。データ改ざんの事実は1年前の2016年8月に社長に報告されていたと言いました。(恐らく取引先には内々に報告して了解を得ていたと思われますが) それから1年4カ月後、世間から見れば、突然公表されたわけです。(記者から当然質問されましたが)その理由を11月にインターネットの掲示板に書き込みがあったので(非公表の方針を変更した)と説明しました。正直と言えば正直ですが、この社長の説明では東レは(都合の悪いことは)隠ぺいする会社なのか、という悪いイメージを世間に与えてしまいました。

■建材親会社としてのトップの姿勢に好感

事例 ≪社長の誠実さが伝わった旭化成≫
 2013年10月20日、横浜の大規模マンションの傾斜事故が世間を騒がせ、旭化成の社長が謝罪会見しました。子会社の旭化成建材の杭打ちに欠陥があったことが判明したからです。浅野敏雄社長は、「深く、深く、反省し、居住者の皆さまにおわび申し上げます。誠に申し訳ありません」と涙ながらに謝罪しました。それまでの旭化成建材関連会社幹部の謝罪会見やインタビューの受け答えは、決して褒められたものではありませんでした。また、真っ先に謝罪会見すべき販売会社(三井不動産レジデンス)や元請け(三井住友建設)はマンションの居住者には謝罪しましたが、世間に向けての謝罪会見をしていませんでした。そんな中で工事の孫請け(旭化成建材)の親会社の社長が謝罪せざるを得なくなったのでしたが、社長の誠実さ(人柄)が世論(+居住者)に伝わった成功例です。

事例 ≪広報部長が社長代行をやり切った日揮≫
 2013年1月16日にアルジェリアで発生したテロによって日揮の関係者17人が犠牲になりました。痛ましい事件発生から10日間、日揮の遠藤毅広報・IR部長はマスメディアの対応を一人でやり抜きました。社長が現地へ飛んだからです。テレビで生放送された遠藤部長の冷静沈着さ、落ち着いた物言い、時に涙を浮かべる人間味に多くの国民が感動したのです。マスメディアは、記者会見の場で「社長を出せ」、「生存者の名前を公表しろ」など、要求を突き付けました。テレビ中継をかたずを飲んで見ていた人たちがネットに書き込みました。 「日揮の社長かわいそう。社員を10人も殺されて」「日揮は社員も社長も全員立派だ!」「マスコミは何の権威もない!」などなど。クライシスマネジメントとしての広報が「企業ブランドイメージ」を高めた空前絶後の成功例です。

事例 ≪社長が恥をかいた日産自動車≫
 2017年9月30日、日産自動車の無資格検査員による完成車検査が発覚し、西川社長が謝罪会見しました。「9月30日以降は無資格検査員による完成車検査は是正しました」と。それにもかかわらず、2週間後に(実は現場の工場に指示が徹底せず)その後も4工場で無資格員検査が続いていました、と西川社長が再謝罪会見せざるを得なくなったのです。社長は恥をかき、会社は信用失墜しました。もともと西川社長の「悪気はなかった」「現場の課長と係長のコミュニケーション不足」という原因説明も能天気な釈明ではありました。
 国交省の「日産の違反事実の公表」から10日も経った9月29日、金曜日に部長級が無資格検査員の事実を説明する記者会見を行いました。そして土日を挟んで、3日後の月曜日に(満を持して)社長が正式の謝罪会見したはずでした。しかし結果を見れば、社長に恥をかかせるためなのか、周到な準備をしていなかったのかと勘繰られてもおかしくない失敗例です。

■記者会見に対する感度を高める

 本シリーズ第1回では、まず記者会見の現状を知ってもらう目的で、これまで注目された社長会見を徹底的に検証。現場や実態を的確に把握するためには、各社の失敗例、成功例は貴重な教訓となる。各企業では、経営倫理、コンプライアンスを中心にさまざまな取り組みをしているが、「記者会見」の重要性を認識し、感度を高めていきたい。


2017年12月22日配信

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