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トップページ > 経営倫理フォーラム > コンプライアンス春秋+ > 2017年11月14日配信記事

   倫理月間(10月)の効果問われる
    経団連、7年ぶり「企業行動憲章」を改定


経団連(榊原定征会長)が11月8日、会員企業の行動指針とする「企業行動憲章」改定を発表した。7年ぶり、5回目の改定で「技術革新を通じて持続可能な経済成長と社会問題の解決を図る」ことを柱とした。
 経団連は毎年、10月を企業倫理月間としている。「企業の自発的かつ継続的な企業倫理確立を支援していくこと」を目的として、経団連が定めた企業倫理の取り組みの啓発と強化を呼び掛ける月間である。2002年10月に経団連が「経団連企業行動憲章」を「企業行動憲章」に改定し、同時に「企業不祥事防止への取り組み強化について」を発表し、毎年10月を「企業倫理月間」と決定したことに始まり、今年で16年目を迎えた。
 毎年、この時期にあわせて10月に入る前に経団連の会長から「企業倫理の徹底のお願い」が発信され、グループ企業も含めた「事業活動全般の総点検」、「企業倫理の取り組みの強化」、「不祥事への適切な対応」が喚起されている。また、これに呼応するように10月を自社の企業倫理強化の時期とし、海外関連会社を含めたコンプライアンス研修の実施などを行う企業も多い。

■広がる取り組みと並行して発生する不祥事

このような継続的な取り組みの成果もあり、ここ20年でわが国の企業における企業倫理に関する取り組みは急速に強化された。2008年の経団連の調査では「行動憲章」を制定している企業は、97.8%(580 社)。教育・研修を実施している企業は96.0%(569 社)で、浸透度合いを測るために、何らかの評価を実施している企業は、96.3%(571 社)にのぼる。
 もはや、企業倫理に関する取り組みは企業経営における自然な活動として定着している。また、時代で変化する社会課題に呼応して環境や個人情報の保護、反社会的勢力との関係根絶など、企業倫理の取り組みの対象範囲を拡大させてきた。さらに、近年では戦略的CSRやCSVなど、企業倫理に関する諸活動を経営の強みにつなげようとする活動も積極的に取り組まれている。
 しかし、他方でこのような企業倫理に関する取り組みと並行して企業不祥事が発生している。「企業行動憲章」の前身である「経団連企業行動憲章」が公表された90年代には、大手証券会社や大手地方銀行など金融機関の相次ぐ破綻があった。「企業行動憲章」が制定され「企業倫理月間」が開始された2000年代には総会屋への利益供与事件や、大手食品や自動車メーカーにおける製品事故などが相次いだ。また、直近を振り返っても、個人情報の流出や製品検査の偽装など、企業不祥事は後を絶たない。
 企業倫理の活動の強化とはうらはらに発生するこれらの企業不祥事の事例は、企業に対してさらなる企業倫理の活動の強化を求めるとともに、そもそも「企業倫理の活動」はどうあるべきかを、われわれに問いかけているように思われる。

■活動は倫理的な組織文化の構築に至っているか?

最近の企業不祥事のメカニズムを観察すると、企業倫理の活動を積極的に行いながらも、不祥事の発生へと陥ってしまっている例が多い。直近の企業不祥事を見ても、企業倫理規程の制定や教育、コンプライアンス研修の実施などを行っている企業が不祥事を発生させている場合が少なくない。なぜこのようなことが発生してしまうのであろうか。
 さまざまな見解があるかと思われるが、組織文化の観点から見ると「企業倫理の活動が表層的な活動にとどまり、企業の組織文化の内面に届いていないという要因」が示唆される。組織文化研究によれば、「組織文化」は図のようにセレモニーなどの可視的なもの(つまり、コンプライアンス研修など目に見える活動)から、人間の本質に対する前提など非可視的で内面的なもの(つまり、「善とは何か?」など、人が意思決定をする際に用いる無意識的な仮定)へと至る階層構造をなしており、これら全ての階層が相互作用した結果として存在するということが明らかにされている。

(図)組織文化のレベルと相互作用
エドガー・H.シャイン(著)、清水紀彦、浜田幸雄(訳)(1989)『組織文化と リーダーシップ-リーダーは文化をどう変革するか』、ダイヤモンド社を基に筆者作成。

つまり、可視的な諸活動を増加させても、組織(至っては組織を構成する人々)の内面に響く活動とならない限り、目標とする組織文化は形成されない。企業倫理の活動に翻せば、いくら企業倫理規程の制定やコンプライアンス研修等の可視的な諸活動を増加させても、従業員の内面に響く活動とならない限り、企業倫理の活動は表層的なもの終わり、倫理的な組織文化を構築できないのである。また、表層的な活動は、「倫理的な文化を構築できている」との誤解を組織内に発生させ、結果的には企業内部の倫理的な問題を潜在化させてしまう。結果として企業は企業倫理の活動を実践すれど、倫理的な組織文化は構築できずに不祥事へと至るのである。
 具体的な活動の運営に追われ、倫理的な組織文化の構築まで至っていない(あるいは、そこまでの綿密な戦略設計や実施ができない)企業は少なくないのではないだろうか。企業倫理月間を機会に、『自社の「企業倫理の活動」が「倫理的な組織文化を構築する活動」として成立しているか』、今一度、問うことを推奨したい。

【東京交通短期大学専任講師 平野 琢】


2017年11月14日配信

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