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トップページ > 経営倫理フォーラム > コンプライアンス春秋+ > 2017年10月25日配信記事

薬価から探る医療の行方 ( 上 )
革新薬をめぐる連携と思惑


ジャーナリスト 楢原 多計志

開発のスピードが遅く、国際基準への対応やコンプライアンス遵守の意識に乏しい─。がん治療薬などの画期的な新薬の登場は人類の悲願だが、日本の創薬は欧米に大きく後れを取っている。折しも、2018年度診療報酬改定(薬価改定含む)の論議が大詰めを迎え、日本の医薬行政や製薬業界が抱える課題が見えてきた。そこには薬価改定や政府が掲げる「革新的医薬品の創設」をめぐる政府と製薬会社の思惑の違いも明らかになっている。

■「未来投資戦略2017」の一環

「産学官の人材の流動性が少なく、開発戦略への理解が乏しい」「開発のタイムラインを守る意識が乏しくスピードが遅い」「国際基準・規格への対応やコンプライアンス遵守の意識が乏しい」…。10月2日に開かれた厚生労働省の第1回の「革新的医薬品創設のための官民対話」で、国立がん研究センターの中釜斉理事長は日本のがん治療薬の創薬と臨床開発に関する課題を挙げた。
 革新的医薬品の創薬は、ことし6月に閣議決定した「未来投資戦略2017」の一環で、政府には産学官の連携によって革新的な医薬品を創薬し、日本を先進医薬品・医療機器の輸入大国から輸出大国へ転換させる大きな狙いがある。「革新的」という言葉が安倍政権の強い意欲を示し、当面、がん治療薬の創薬に狙いを定めた。
 さっそく厚労省は18年度予算の概算要求に「産学官共同創薬研究プロジェクト」などの創薬基盤推進研究事業」(27億円)などを計上。文部科学省は「創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業」(3200万円)、経済産業省も「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業」(70.3億円)などを盛り込み、創薬への支援体制を固めつつある。

■オプジーボ問題の余波

だが、製薬会社の反応は「業界では誰も反対しないが、前向きとは言い難い」(大手薬品メーカー)なのが実情だ。大きな理由が3つある。1つは政府の予算額が少ないこと。世界市場を席巻する医薬品の創薬は「万に1つ」と言われるほど大きなリスクを伴う。成功例は限られ、多額投資後の失敗は経営を根底から揺るがしかねない。
 2つ目は先の中釜理事長が指摘したように、研究機関や行政機関、製薬会社の間で人材の交流が少ない。また世界規模の欧米の超大手製薬企業と比べ、日本の製薬会社は資本力や開発資金力が弱い上、公的医療保険に擁護される格好で生き延びてきたせいか、経営戦略やコンプライアンス意識に乏しい企業風土が残っている。
 3つ目には政府の薬価制度に対する不満や不信が強いことだ。ことし2月、政府は高額薬として社会的にも注目された免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」の薬価を一気に50%引き下げた。「公的医療保険財政への影響が大きい」というのが理由だが、発売元の小野薬品工業は販売予想額を下方修正せざるを得なくなったという。
 しかも、政府は2年ごとの薬価改定を時期に関係なく引き下げる方針を打ち出した。今の薬価制度には「新薬創設・適応外薬解消促進加算」という創薬を促す加算システムがあるが、製薬会社の営業担当役員は「苦労して革新的医薬品を売り出して加算を取り付けたところで、審議会も通さず、一方的に薬価を引き下げられたら…」と不信感をつのらせている。産学官の連携は不信感の払しょくが最初のハードルになっている。


2017年10月25日配信

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