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<第14回>
 高橋・前住友信託会長の倫理なき証言

 住友信託銀行の高橋温・前会長(現・相談役)が朝日新聞で「証言そのとき」というタイトルの連載を始めている。1998年3月に社長就任後、日本長期信用銀行(現・新生銀行)との統合交渉が頓挫した経緯など、銀行のトップならではの経験談を生々しく語っている。エピソード自体には新味は乏しいが、政治家や官僚などの実名入りになっている点が特徴。「登場する人物には仁義を切っているのか」「あの人は本当にこの通りに発言したのか」などが気にはなるものの、興味深い連載である。

 だが、証言を通じて主張している内容には首をかしげざるを得ない。高橋氏が世間で知名度を上げたのは、小渕恵三首相(当時)から、経営難の長銀との統合を要請されながら拒否した一件があったためだ。「首相の理不尽な要請を断った勇気ある経営者」と評価する向きもあったが、「証言」を読む限りでは、「倫理観が欠如し、身勝手な考えを押し通す経営者」としか感じられない。「証言」によると、長銀から住信に統合交渉の申し入れがあったのは、98年6月。すると、高橋氏は直ちに大蔵省(現財務省)事務次官のもとを訪ねたという。そして大蔵省のバックアップがあることを確認した上で、長銀からは正常債権しか引き受けない、などの条件を付けたのだ。最初から、国の資金(公的資金)で長銀の不良債権を処理してもらい、「いいとこ取り」をする意向だったことがうかがえる。結局、その願いはかなわず、最後は小渕首相からの直接要請をも断り、長銀は経営破綻を余儀なくされた。

 「当社が世界恐慌リスクに責任を負う立場ではないことははっきりしていた」「法律上の制約のツケを一企業に追わせられても困る」「速水優・日銀総裁は企業統治への理解が浅い印象を受けた」「政府に自らリスクをとろうという気概は感じられなかった」「宮沢喜一蔵相は政治センスに問題があった」……。勇ましい言葉が並ぶが、住友信託は本当に「一企業」にすぎないのだろうか。住友信託は他の大手銀行と同様に、98年3月と99年3月の2度にわたって、国から公的資金の資本注入を受けた。自力では経営を全うできない状態だったから国の助けを受けたのだろう。民間の「一企業」が経営難に陥ったからといって国が資金を援助することなどあり得ない。住信は大手銀行の一角に名を連ね、金融システムに責任を持つ存在だからこそ、国は資金を援助したのだ。住友信託に長銀との統合を拒否する権利があったのは言うまでもないが、今ごろになって官僚や政治家の批判を繰り広げる真意はどこにあるのか。住友信託はその後、公的資金を返済したが、借金を返し終わったから一方的な証言が許されるとでも言うのだろうか。

 08年のリーマン・ショック、昨年来のユーロ危機で、欧米の金融機関には多額の公的資金が投入されている。経営者たちには、やはり厳しい視線がそそがれ、経営責任を問われている。金融システムの一翼を担う銀行の経営者には、一般企業の経営者とは比べものにならないほど高い倫理観を持って欲しいが、その反対になっているのは世界共通の傾向なのだろうか。

(希望の民)

2012年01月07日配信


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